日曜日に開催されている「日本語学習支援ボランティア講座」10年前は目の前にあることしか見えなかったけれど、今ならその先にあるもの、後ろや脇にとりあえず置いてあるものなど、よく見えるようになった。まだまだ見落としているものがたくさんあるんだろうな。すべては無理でも、少しでも多くみつけるつもりだ。
さて、今日は16回のうちの9回目。導入の模擬実技の番だった。ペアを組んだ現役ボランティアのOさんにお願いして、私は大したこともせず、無事終了。・・・だけど、せっかくイメージしたのが頭にあるうちに文にしてみようかしら。日本語教育に興味を持っているhさんも、見てくれるかな。
与えられたテーマは『みんなの日本語』の6課、「NをV」の導入。
6課は、他動詞文が登場。自分の行動の表現の巾が広がる課だ。新出の語彙も、動詞「食べます、飲みます、[煙草を]吸います、見ます、聞きます、読みます、書きます、買います、[写真を]撮ります、します、[友だちに]会います」、名詞「ごはん、朝ごはん、昼ごはん、晩ごはん、パン、たまご、にく、魚、野菜、果物、水、お茶、紅茶、牛乳、ジュース、ビール、ビデオ、映画、CD、手紙、レポート、写真、店、レストラン、庭、宿題、テニス、サッカー、[お]花見、何」、そのほか「一緒に、ちょっと、いつも、ときどき、それから、ええ、いいですね、わかりました、何ですか、じゃ、また[あした]」と盛り沢山。この語彙を見てワクワクするか、うんざりするか。学習者にはワクワクしてほしいな。
今日の模擬学習者はボランティア講座参加者から3名。イギリス人のダイアナさん(本当は日本人のTさん)、韓国人のチェ・ジウさん(本当は日本人のMさん)、それからタイ人のセークさん(本当は日本人のA君)この3名がにわか外国人日本語学習者になり、模擬授業を受けるというわけだ。
まず最初に新出語彙の読み合わせ。学習者の持っている語彙帳にはそれぞれの言葉でそれぞれの単語の意味が書いてある。ちなみに、タイ語の語彙帳はこんな感じ。
『みんなの日本語 初級Ⅰ翻訳・文法解説』(語彙帳)を取り、
「42ページ。食べます、はい(学習者にキュー)」「たべます」「飲みます」「のみます」・・・・
それぞれの単語の意味を理解したところで、導入です。今回の模擬では11ある動詞のうち、はじめのふたつを取り上げることにした。「食べる」と「飲む」、「見る」と「読む」は間違えやすいので、練習には時間をかけていたから。模擬の時間も限られているので今回は「食べる」と「飲む」だけにした。(←ここでは「食べます」と書いてないことに注意!*1)
ポケットからチョコレートの包みを取り出し、
「チョコレートです」
包みを破り、口に入れる。
「食べます」 黒板に [チョコレート たべます]と書く。「チョコレート」と「たべます」の間に赤で「を」と書き入れ、ここには「を」という何か(実は助詞)が必要なんだということを類推させる。「チョコレートを食べます。はい(キュー)」学習者(はは~ん、日本語は名詞と動詞の間に何かへんてこなものを入れるんだなぁ)「チョコレートをたべます」この辺で採れたイチゴを取り出して「イチゴ・・・」「イチゴをたべます」指導者(よしよし、助詞の「を」を入れるんだって気がついてくれたね)「そうです!」
絵カードを取り出して、「セークさん、パン」セーク「パンをたべます」「チェ・ジウさん、たまご」「たまごをたべます」「ダイアナさん、肉」「にくをたべます」・・・
「Nを食べます」はわかったようだ。では、否定文を作ってもらおう。朝ごはんの絵カードを取り出し、
「朝、7時です。朝ごはんです。」絵カードはしまい、「朝ごはんです。セークさん、ラーメンを食べますか。」セーク(えっ!日本人は朝からラーメンを食べるのかなぁ。僕はラーメンは食べないよなぁ・・・)「いいえ、たべません。」「ごはんを食べますか」セーク(ごはんって、日本の?あれっておいしくないんだよね、タイのカオニィアオと違ってさ)「いいえ、たべません」はて、では何を君は食べるのかねという表情で、「セークさん、何を食べますか」セーク「パートンコー(*2)をたべます」(否定文も疑問文もOK。さすがセークさんだね)「そうですか。」同じようにチェ・ジウさん、ダイアナさんにも質問する。
次は「飲みます」だ。紅茶のボトルを示し、「紅茶です。飲みます」「こうちゃをのみます」飲み物の絵カードで「ダイアナさん、紅茶」「こうちゃをのみます」「チェ・ジウさん、ジュース」「ジュースをのみます」「セークさん、ビール」「シンハー・ビール(*3)をのみます」ハハハ、さすがタイ人!
昼ごはんの絵カードを示し、「12時です。昼ごはんです。」「チェ・ジウさん、お酒を飲みますか?」「いいえ、のみません。」(だよね、普通は。でも彼はどうかな?)「セークさん、昼ごはんです。ビールを飲みますか?」「はい、のみます。」(やっぱり。イギリスでの英語留学時、授業中机の中にビールをしのばせていたというツワモノ。でも私の授業中は飲ませないぞ!)
「Nを食べます」「Nを飲みます」上手く言えたようなので、仕上げ練習。ここではフラッシュ・カードを使おう。食べ物と飲み物の単語を紙に書いて、学習者の前に示す。「食べます」のグループ、「飲みます」のグループ、それぞれ分けて練習したら、シャッフル。「たまご、パン、水、肉、紅茶、ビール、牛乳、肉・・・」 「食べます」と「飲みます」、どちらが出てくるかな。混同しないようにね。「たまご・・を、の、たべます」「パンをたべます」「みずを、の・・のみます」「にくをたべます」「こうちゃを・・・のみます」「ビール(まかしとけ)をのみます」・・・・
ということで、模擬実技終了!大体こんなふうに日本語のレッスンというのは行われている。既習の文型、既習の単語を使って、知識を積み重ねて正しい日本語にもって行くので、そこに至るまでは、目をつむってもらわなければならない日本語を使わざるを得ないが、これはどうにも仕方ない。この課では特に気になる点はないと思うが、日本語の初級学習者に対しては温かい目で見守ってあげてください。
注 *1 初級日本語学習者に対しては動詞は「ます形」と呼ばれる「~ます」の形で提示される。日本人同士ならば「食べる」「飲む」というが、6課の段階では日本語学習者はまだその「形」を学習していない。ここではblogの読者向けにいわゆる終止形(日本語教育では「辞書形」)で書いてある。
*2パートンコー:漢字では「油条」と書く。揚げパンとも言われる。朝ごはんに食べる。一般的には豆乳と一緒に食べるが、私はそれだけを食べるのが好き。タイの「パートンコー」は小さいが、台湾の「油条」はびっくりするほど大きい。
*3タイを代表するビール。最近はチャーン、レオ等数多くの銘柄があるようだが、私はビールを飲まないのであまり詳しくない。実は、ここではセークに「M-150を飲みます」と言わせたかったのだが、それではあまりに遊びすぎなので、やめた。