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2005.06.14

成熟するタイのポップカルチャー 2

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人気のサブカルチャーマンガ家が日本に留学する理由
マンガ家ウィスット・ポンニミットWisut Ponnimit

経済事情が大きく変化していく時代に育ち、『少年ジャンプ』を読みながら、続きが知りたくて、自分で描いてしまったというポンニミットさんの子供時代。高校時代は、あだち充さんのマンガに出てくる主人公たちのようになりたかったそうだ。タイで今ポップカルチャーの旗手として活躍するポンニミットさんの作品は日本人読者からも注目を浴びている。

タイで根付く日本のマンガ
MA(MAGAZINE ALC):タイのポップカルチャーがすごく元気だと聞きましたが、なぜでしょうか。
ポンニミット:97年のアジアの通貨危機が大きなきっかけになったと思います。タイでも大学を卒業してもよい職を得るのが難しくなりました。それなら自分たちで何かやってしまおうと、作品を発表したり、レコード会社や出版業を始める人々が出てきたのです。僕と同じ、現在30歳前後の世代ですね。
  例えば、僕の友人でもある作家のプラープダー・ユンの小説『地球で最後のふたり』は、映画監督のペンエーグ・ラッタルアーンが映画化してベネチア映画祭で賞を取りました。ノート・ウドムテーマニット(meew注正しくはノート・ウドム、もしくはウドム・テーパニット。อุดม แต้พานิช)はコメディアンとして舞台に立ちながら小説を書くなどマルチな活動をしています。カルチャー雑誌 a day は売れ行きが好調で、バックナンバーにはプレミアム価格がつきます。一番活気があるのは音楽の分野ですね。インディーズのレーベルが十何社とあって、ミュージックフェスティバルには数万人が集まります。
  ただ、音楽以外のジャンルでは、クリエーターと受け取る側との間にまだまだ”溝”があります。海外で評価された映画がタイ国内では受けなかったり。
MA:タイのマンガ事情はどうですか。
ポンニミット:雑誌スタンドではマンガ本をたくさん売っています。値段は1冊35~40バーツ(約105円~120円)くらい。貸しマンガ本屋もたくさん会って1冊1~2バーツで借りることができて、人気がありますね。そのうち98パーセントは日本で出版された作品の翻訳です。ほとんどのメジャーな作品は翻訳されていますし、『少年ジャンプ』のタイ語版は日本の2週間遅れで発売されています。僕が子どもの頃は海賊版だらけだったようですけど、今は翻訳権をちゃんと取ったものが出版されていますよ(笑)残りの2パーセントくらいがタイの漫画家によるものです。雑誌は人気がないから創刊してはつぶれています。だから、連載をつづけられないので、タイではギャグマンガばかりで、ストーリーマンガは少ないんです。今、タイでプロのマンガ家として生活できている人は10人程度じゃないでしょうか。決して恵まれてはいません。
MA:あなたのマンガは知識層やクリエーターたちの間で評判が高いそうですね。
ポンニミット:ええ、それに最近は”デック・ネーオ”と呼ばれるティーンエージャーのファンも増えています。直訳すると「ジャンルの子ども」という意味で、サブカルチャー好きで服装もちょっと変わった子たちですね。
僕のマンガへのタイの人々の反応は絵が下手だからと手にも取らない人(笑)と、絵は汚いけど物語を面白がってくれる人と、2つにきれいに分かれます。日本でうれしいのは僕の作品を絵だけで判断しないで、まず読んでくれることですね。たぶん、日本のマンガにはいろいろあるので、免疫ができているのではないかと思います。
  マンガを読むのにも「文法」が必要です。例えば電球のマークが主人公の横にあれば「ひらめいた」という意味だとか。タイ人はまだ全体的に、マンガの理解力が低いのだと思います。
  ある日本人によれば、タイのマンガは、大学生が読み始めたり、インディーズ系の作品が登場したり、日本の70年代中盤レベルだそうです。そうすると、僕は30年は待たねばならないわけです。(笑)

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日記のように書いたマンガがヒット
MA:どんな子ども時代でしたか。
ポンニミット:太っていて、いつもゲームとマンガに夢中。だから、女の子には人気がなかったです(笑)。『キャプテン翼』や『ドラゴンボール』が大好きで、その週の分を読み終わっても満足できなくて、続きを自分で描いていました。それを気の合う友達に見せたりしていました。
MA:ご両親が学校を経営されていて「本人のやりたいことをやらせる」という教育方針でした育ったとか。
ポンニミット:両親はビジネス学校を経営していたのですが、父は早くに亡くなりました。その後、母が一人で学校を切り盛りしながら、私たち兄弟を育ててくれました。兄は学校の経営を引き継ぎながら、政治の道に進み、姉は服飾業界でデザイナーとして活躍しています。
 兄弟がいろんなジャンルに進めたのは母の教育方針のおかげです。他の家庭より自由でしたがなんでもOKというわけではありませんでした。但し、タイの一般的な母親が持っているマンガへの偏見はなかったですね。僕があんまりマンガに熱中しているので、冗談めかして「マンガ家になったらどう?」と言ったこともありました。でも、実は、そのころにはもう隠れてマンガを描いていたのですが(笑)。
 高校時代にはあだち充さんの作品にはまっていました。彼のマンガに出てくる主人公たちのようになりたかったですね。本当はすごく優しいんだけど、それを笑いやぶっきらぼうな態度で隠してしまうような。
MA:ポンニミットさん自身や作品がそんなタイプではないですか。作品のタイプは違っても同じような繊細さがある・・・・。
ポンニミット:そう言われると本当にうれしいですね。僕は自分をあだち充さんの「息子」のような存在だと考えています。遺伝子は受け継いでいるけど完全に同じではないという意味で。
MA:大学ではインテリアデザインを学んだのですね。
ポンニミット:ええ、格好いいし、お金も儲かるかなと思いまして(笑)。その時点ではマンガ家になるつもりはありませんでした。食べていけるとは思いませんでしたからね。でもこの選択は失敗でした。授業は楽しくないし。だから点数も悪くて、先生にも半分見放されてました(笑)。自分自身や表現について考えいていたとき、日記みたいに描き始めたのが hesheit です。彼(he)が彼女(she)に出会って物語(it)が起こるくらいの意味です。親しい友人に見せたら受けがよくて、次第に読者の輪が広がっていきました。結局、これは5年間続いて8巻のシリーズとして出版されました。
MA:プロデビューのきっかけについて面白いエピソードがあるそうですね。
ポンニミット:周りで hesheit の評判がいいので出版社に持っていったんですが、門前払いで、どうしようかと思った時、タイのヒップホップ界のスター、ジョージ・ボーイが通りかかったんです。そこが音楽も手がける会社だったんですね。それで、僕のマンガを見せたら気に入ってくれたので、社長に渡してくれるように頼んだんです。もちろん初対面でした。(笑)。その後、カルチャー雑誌などに書くようになり、プロとしての活動がスタートしました。
MA:ドラマーとしても活躍しているそうですね。
ポンニミット:ええ、インディーズ系バンドの助っ人として活動しています。楽器を演奏するようになったのは13歳の時、学校のマーチングバンドで、サックスを担当したのが最初です。その後も見よう見まねでサックスやギター、ドラム、ピアノなどを友人たちと演奏していました。

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アニメとライブを融合
MA:今は、日本へ留学されているのですね。
ポンニミット:2003年の10月からです。日本語学校に1年半通ったあと、京都のマンガ専攻コースがある大学で研究生をしています。マンガの本場で暮らしてみたかったんです。それから、僕のマンガが受け入れられるか挑戦したかった。留学先としてイギリスやアメリカは考えませんでした。
 生活を始めてみて、一般書店でもかなりのスペースをマンガに割いていたり、専門店があったり、日本がマンガ王国であることを実感しました。
MA:日本での暮らしで驚いたことなどありますか。
ポンニミット:うーん、実は文化や習慣に違和感はそれほど覚えませんでした。日本のマンガで、畳や布団も立ち食いソバやどら焼きもみんな知っていたので(笑)。
MA:現在、どんなか活動をしているのですか。
ポンニミット:今年になってから、タイと日本と同時に everybodyeverything という本を出版しました。日本では音楽雑誌『ロック画報』とカルチャー雑誌『Key Station』でマンガを連載しています。絵本の製作やFRAPBOIS(デザイナーの宇津木えりの洋服ブランド)のTシャツのデザインなどにも挑戦しています。
 04年1月には、京都で個展を開き、最近では、アニメに僕が自分で楽器を演奏して音楽をつけるライブを東京、大阪、神戸でやりました。それ以外にも東京、大阪でイベントに出品しています。
 タイでもマンガ連載は続けていて、先日、一時帰国して、新刊記念にアニメ・ライブのイベントを開きました。たくさんのファンが来てくれてうれしかったです。
MA:アニメでは、音楽や声優も自分で担当しているそうですね。
ポンニミット:これまで hesheit のアニメ版の中篇(約40分)をはじめ、15本くらい作りました。"恩人"のジョーイ・ボーイのミュージック・ビデオも作らせてもらいました。アニメを始めたのは、自分のマンガが、好きだった日本のアニメ番組のようにTVモニターで動くのを見てみたかったからです。音楽やアフレコを人に頼むお金がなかったから、自分でやりました。音楽は僕がやって正解だったと人に言われます。自分だけの感覚をストレートに表現できますからね。
 アニメにライブで音楽をつけるという活動を始めたのは、友達のバンドにドラマーとして参加してコンサートをするたびに、ミュージシャンはライブでファンにあえていいなあと思っていたからです。マンガはいくら描いても、こういう幸せは味わえない。それでアニメにライブで音楽をつけてみたのです。この形に行き着く前、普通にライブをやったり、入場者の顔をその場で壁に描いていくライブペインティングをやったりしました。でも、現在の形が一番よさそうです。僕のアニメを見ているファンの笑顔や泣き顔が目の前で見られてすごく幸せです。
 これまでタイ、日本、フランスでライブを行いましたが、機会があればもっといろんな国でやってみたいですね。そのためにも、今はまずピアノを一生懸命練習してもっと上手にならないと(笑)。
 来年にはタイに帰国するつもりですが、そうしたら、1時間くらいの作品をDVDの形式で発表したいと思っています。
MA:吉本ばななさんの小説『なんくるない』のカバーも担当されていますね。
ポンニミット:イベント会場で販売したTシャツを吉本さんの知人が買って、それを見た彼女が連絡をくれて絵を褒めてくれたのです。それで、アニメのCDをお贈りしたところ、気に入っていただき、表紙の依頼のお話になりました。吉本さんは、狭い会場で開かれた僕のイベントにも足を運んでくれたんです。日本はおろか世界中各国に小説が翻訳されている有名人じゃないですか。でも、本当に普通に接してくれて感動しました。
MA:吉本さんはあなたの『everbodyeverything』の解説で「日本で疲れてよれよれのぐちゃぐちゃのすれっからしになってしまった人たちの心を本当にあたためることができるのは、彼の美しい魂だと思う」と描いています。私はあなたの故郷であるタイにも同じことを言えるような気がするのですが。
ポンニミット:吉本さんから作品を褒めていただいて、うれしいと同時にもっと作品を描いて内容も充実していかなきゃと思いますね。
 僕の作品とタイのイメージとつながるということですが、うーん、ちょっと意外なコメントです(笑)。そういうことは考えたことがないので、ただ自分の作品を通じて読者に感動や笑い、癒しを与えたいとは思っています。特に日本の人々に。みんなまじめできちんとしてるでしょ。時には肩の力を抜いてもいいと思うんですよ。数十分でも僕のマンガを読んでそんなときの手助けにしてくれたらいいですね。

地球人のネットワーキングマガジン「マガジンアルク」2005/07号より

Wisut Ponnimit
1976年 タイ・バンコクで生まれる。マンガ家であると同時に、アニメ作家であり、ミュージシャンでもある。タイでカルチャー雑誌 a day と open house に連載を続けている。2003年から神戸に住み、日本語を学ぶほか、マンガ、アニメを手掛けている。

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コメント

漫画を通して文化交流ですか、こういう留学生がどんどん増えるといいですね。この方が言っておられるように小さい頃から日本の漫画を読んでいるので日本文化に大きな違和感を感じないタイ人というのはけっこういますよね。漫画の影響力恐るべしです。

投稿: しょちょう | 2005.06.15 07:23

>しょちょうさん
この人の絵を見ると、本当にあだち充に影響されてる気がします。香港に帰ってしまったタレントのチューヤンもあだち充が好きだって言ってました。ポップカルチャーは私より詳しい外国人がたくさんいます。日本語教師としては困りものですが。

投稿: meew | 2005.06.15 10:10

自分の好きなことを仕事にしていて、どんどん世界を広げていく人ってとても尊敬します。
成人が漫画を読むことは恥ずかしいとされる国が多いと聞きましたが、タイではどうなんでしょうか。ガオも日本の漫画が好きだけど恥ずかしいみたいなこと言ってましたし。

投稿: みん | 2005.06.15 11:50

meewさんすごい!アップしてくださったのですね!大学図書館ならあるかなーと、さがそうと思ってたのですー。ありがたやー、ありがたやーーー。
この中でプラープダー・ユンはウィン・リヨウワーリンと二人で今のタイの新しい波の人気作家。二人のEメール書簡も出版されているそうです。「地球で最後の二人」は浅野忠信さんが主演ですよね。まだ見てないんです・・・コメディアンのノートはエッセイがタイでつねにベストセラー。訳がアジア文庫で「エロ本」というすごい題ですが、安価で買えます。訳注が写真いりです。

ここに出てくるアニメのDVD、日本でもアマゾンで買えるようですね。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0009JCW5I/250-9580815-4244246
今お金ないので、そのうち買います・・・

投稿: チョムプー | 2005.06.15 11:57

>みんさん、チョムプーさん
私は基本的に、アニメ、マンガは嫌いなんです。特に最近の品のないのは。といいながらも時々は引っかかるのがあって、見たりしますけど。

日本の場合は、マンガを読むことが恥ずかしいというより、マンガそのものが恥ずかしいものが多すぎると思います。

「地球で最後の二人」、DVDがありますよ。でも内容はちょっと。私が見えなかったところにメッセージがあったのでしょうか。

ノート・ウドムの日記のようなもの、ペーパーバックですが、表紙の猫に惹かれて買いました。でも案の定、まだ読んでません。それから彼のライブのVCDもありますが、何を言ってるのかわからなくて、そのままになっています。教材は山とあるんですねぇ。

投稿: meew | 2005.06.15 12:47

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